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それは、実吉が吉田家に引き取られて一月が経ったある日の昼下がり、ふと襖を開けた時のことだった。
庭の木の枝から塀を跨ぎ外に出ようとしている少女が目に入る。
異様な光景に目が離せない実吉。
少女は視線に気づき振り返る。
「何?」
キョトンとして少女が問うてきた。
何も返さずにそっと部屋に戻ろうとすると、
「 見たことのない顔ね。誰?」
と、珍しいものを見るかのようにまた少女が問うてきた。
実吉はめんどくさそうに少女の方を向き、やっと口を開く。
「 実吉。君は誰?」
すると少女は"にっ"と笑って答える。
「 私は梅。ねえ実吉、退屈じゃない?」
「・・・え?」
少女が何を考えているのか分からない実吉。すると遠くから聞こえる声。
「姫様ー!梅姫様ー!どちらにおいでですかー!?」
そして数人のバタバタという足音が聞こえてきた。
その声と足音を聞いた少女は、"げっ"と顔を歪ませてこちらを振り返る。そして、
「実吉、着いてきて!」
と塀を越えた。
何が何か分からないうちに、実吉は少女を追いかけていた。
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