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松正
湯船に浸かりながら実吉は考えていた。どうすれば強くなれるのかと。戦乱の世も激しさを増してきている中、幾らこの国が平和で穏やかであり戦さをしなくても、攻め込まれることがあればここは一瞬にして火の海になるだろう。かつて自分の見た地獄をこの国の人達に背負わせたくはない。守らなければいけない。居場所をくれた吉田家や城下の人達を。友と呼べる弦や花代や六助を。そして、
「 姫様、、、」
暗闇の中から救い出してくれた大切な人を。
『 実吉、名に恥じぬ様主君に仕えるのだ。心から主と呼べるその方に。この名は最期の時まで口にすることを禁ずる 』
実吉は、昔よく聞いた父の声が聞こえた気がした。
「 はい、父上 」
そして湯船を上がり新しい袴へと着替え髪を後ろに束ねる。実吉の目は、少年から大人へと変わっていた。
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