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「それ、まだ聞きますか」
「うん、聞く」
にこにこと無駄に爽やかな笑みを浮かべる彼は、間違いなく私の気持ちを知っているし、私も、なんとなく彼も同じ気持ちであることを分かっている。
お互いに自意識過剰なのかもしれない。でも、特別な存在でなければ、こんな風にして毎週金曜日、いつもと同じ場所で飲んだりはしないだろう。少なくとも私はそう思っている。
「春川がどう思ったのか、知りたいんだけど」
やっぱり私の元気がない原因を知っていた彼は、私にそう問いかけてきた。
昼休みが終わる少し前。事務所に続く廊下の隅で「来週の金曜日二人でご飯でも行きませんか?」と、社内一人気の女の子に誘いを受けていた平野さん。彼がどう答えたのかは知らないけれど、可愛くて人気者の女の子に誘われて嫌な気持ちになる男はいないだろう。
付き合っているわけでもなんでもない私がどうこう言う筋合いはない。だけど、大人になりきれない私は、隠しきれずに仕事にまで支障を出してしまった。
「別に、行ったらいいんじゃないですか? あの子、すごく人気者だし良かったじゃないですか」
態度に表してしまい、仕事に支障を出しても尚、素直になれない。こんな可愛げのない私のことを彼が呆れるのも時間の問題かもしれない。
彼は、可愛げのない私の返答に「ふぅん」とだけ答えると目の前の焼鳥を口まで運んだ。
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