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「ありがとうございました!!」
元気の良いアルバイトの男の子の声を背に、居酒屋を出た私と平野さん。
いつもと変わらない、終電が間に合うこの時刻。すこしだけ肌寒い寒空の下、駅までの道のりを二人ならんで歩き続けた。
「春川さ、」
「はい」
「さっきの話、本当に俺とあの子がご飯に行けばいいと思ってる?」
平野さんの質問に、一瞬、言葉に詰まった。
また意地悪でも言ってくるのかと思いきや、隣にいる彼の横顔は意外にも真面目な表情だった。
「ひとつだけ勘違いしてほしくないから言わせてもらうけど、ご飯の誘いは断ったよ。“金曜日は彼女のために空けてるから”ってさ」
「え?」
「だから、そんなに落ち込む必要ないよって話」
さらっと、業務報告でもするかのように彼が放った言葉。この中に“彼女”という単語があったことを私は聞き逃さなかった。いや、聞き逃せなかった。
毎週金曜日、彼と過ごしているのは私のはず。ひょっとしたら、私と会ったあと他の女の子と会っている可能性だってあるかと思ったけれど、もう日付は変わろうとしている。この数分で次の人に会いに行ける訳がなかった。
「あの。これから他の人と会うとか、そういう予定って」
「ないよ。金曜日は、春川のために空けてる」
「えっと、それじゃあ、私と平野さんって……」
“付き合ってるんですか?” と聞こうとして、でも、勇気が出なくて口を閉じた。
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