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「まだ、付き合ってないけど」
「ですよね」
「でも、来週の金曜日、言葉通り彼女として過ごしてほしいなとは思ってるよ」
「えっ」
いつものように左隣、車道側を歩いていた平野さんの言葉に私は足の動きを一瞬止めてしまった。
確かに、彼も私と同じ気持ちである可能性はあると思っていたし、そういう風に思わせるような言動もあった。だけど、まさか、彼の方から分かりやすく気持ちを知らされるとは全く予想できなかった。
「平野さんって、私のこと好きなんですか」
「そうじゃなきゃ、こんな風にして毎週金曜日終電まで一緒にいないと思うけど。ところで、春川さんの方はどうなの?」
「えっ」
「同じでしょ?」
いつもと変わらない金曜日。
いつもとかわらない町並みと、夜の片隅で、左隣を歩く平野さんの右手が私の方に伸びてくる。
まるで、不器用な私のために“同じなら、手を握って”と言うように差し出された大きな手のひら。私はそれに、そっと左手を重ね、強く握り返した。
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