桜の下で

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確かに海野さんの言う通り、甘じょっぱい。甘いココアと相性抜群だ。 「美味しい……! お店で作ったパンがこんなに美味しく調理されてると思うと、もっと頑張ろうって思えます」 春川さんは目を輝かせながら言う。 「そうかい、そりゃよかった」 海野さんは煙草を咥え、火をつける。以前から疑問だが、経営者が仕事中に、こうも堂々と喫煙していいものなのだろうか? 「ねぇ、朱音くん。どうして春川さんと一緒にいるの? 朱音くんとパン屋さんが、どうも結びつかないんだけれど……」 白浪さんは不思議そうに僕達を交互に見る。大人しそうに見えて、案外好奇心旺盛だ。まぁ物書きに好奇心はかかせないものだがね。 「そうだな、強いて言えば運命かな」 「またそんなこと言って……」 白浪さんは呆れ顔をしてため息をつく。海野さんは対称的に、微笑ましそうにしている。いつも仏頂面をしているイメージが強いからか、彼も優しげな顔をするのは意外に思える。 しかし何故だろう? 数ヶ月前なんて最近ではなく、もっと前にこの穏やかな顔を見たことがある気がしてならない。 いつものくせでつい“運命”なんて言ってしまったけど、春川さんはどんな反応したのか気になって隣を見ると、頬がほのかに染まっている。なるほど、海野さんが微笑ましそうにしていたのはこういうことかい。 「あの、海野さん……」 春川さんは照れを誤魔化すように海野さんを呼ぶ。 「どうした?」 「その、そろそろうちも新商品出そうかって話になってるんですけど、常連さんとしてなにか意見はありませんか?」 口実とは言っていたけど、意見を聞きたいのは本当だったようだ。 「新商品ねェ……。あぁ、そうだ。この前もらって食ったクロワッサン。あれでサンドイッチ作ったらさぞかし美味いだろうよ」 「分かりました、オーナーに伝えておきます」 春川さんはノートにメモをすると、再びフレンチトーストを食べ始めた。
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