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こうも自分に嫌気がさしたのは初めてで、思わずため息をつきたくなる。
「はあぁ……」
おや、僕のかわりにため息をついたのは誰だろう?
顔を上げるとノートを抱えた女性が、物憂げな顔をして歩いている。見た目からして20代後半だろうか? 薄桃色のワンピースに白いカーディガンが良く似合う可愛らしい女性だ。
はて、どうしたものか……。声をかけたい気持ちはあるが、ナンパまがいの行為はしたくない。かといって、落ち込んだ女性を放っておくのも気が引ける。
同じ学校の女子生徒なら声をかけたかもしれないが、大人の女性の悩みが僕に解決出来るとは思えない。
「きゃっ……! うぅっ、いったた……」
女性は転んでしまい、ノートとペンケースが地面に打ち付けられる。僕は急いで彼女に駆け寄った。ワンピースのスカート部分が小さく破け、膝には痛々しい傷が出来ている。
「大丈夫ですか? 怪我、してしまいましたね……。ワンピースも、もったいない……。立てますか?」
「は、はい……」
女性は僕の腕を借りて立ち上がる。
「とりあえず、ベンチに座りましょうか」
彼女が落としたノートとペンケースを回収すると、僕は彼女をベンチに座らせた。
「少々お待ちを」
僕はすぐ近くにある水飲み場へ行くと、ハンカチを濡らし、女性が待つベンチへ戻る。
「痛むと思いますけど、我慢してくださいね」
女性に声をかけてから、濡らしたハンカチで傷口の汚れをそっと落とす。
「いっつ……う、ひっく……うわぁ……」
「す、すいません! 優しくやったつもりだったんですが……」
まさか泣かれると思ってなかった。あぁ、どうしよう……。彼女の涙を拭うハンカチなんて、持っていないよ……。
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