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「そんな人がいたら、空回りしても仕方ないですよ。私なんか、休日に出歩いたら偶然海野さん見かけて、後をつけてはぐるまの場所を知ったんですから……。本当に、救いようないです」
まさかフォローしてもらえると思えなくて、驚くと同時に嬉しくなる。
「それなら僕も救いようがないですよ。僕だって、白浪さんの後をつけてはぐるまを知ったんですから」
僕が告白をすると、女性はまぁ、と意外そうな顔をする。
ふと、妙案を思いついた。
「もしよければ、これから一緒にはぐるまへ行きませんか?」
「え?」
女性は困惑したのか、眉をひそませる。
「僕の場合は失恋ではないけれど、でも、このままだと立ち止まったままな気がするんです。貴女も、そうじゃありませんか?」
「それは、そうですけど……。でも……」
「大丈夫、貴女をひとりにはしませんよ。前に進むためにも、一緒に頑張ってみませんか?」
女性は考え込むように難しい顔をした後、ぎこちない笑顔を見せた。
「では、よろしくお願いします。えーっと……」
そうだ、僕としたことが、まだ名乗っていなかった。
「七瀬秋明、ペンネームは成瀬朱音。好きな方で呼んでください。それと、僕の方が年下でしょうから、無理して敬語は使わなくていいですよ」
「私は春川桜良っていいます。よろしく、秋明くん」
身内以外の人に本名を呼ばれるのは久しぶりな気がして、妙に嬉しくなる。
「では、参りましょうか」
「はい」
僕達は立ち上がって肩を並べると、はぐるまに向かって歩き出した。
はぐるまは僕達がいた桜並木から歩いて5分足らずのところにある。
僕達は“OPEN”の看板がぶら下がったドアの前に立つと、小さく息を吐く。
「開けますよ」
「はい」
春川さんが頷くのを確認すると、意を決してドアを開けた。
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