MOUNTAIN

1/1
前へ
/1ページ
次へ

MOUNTAIN

十徳(じっとく)ナイフを持っていこう。 水分補給もかかせない。 汗ばむくらいなら服は脱いで。 リュックの底にでもしまってしまえ。 瞳孔は御空(みそら)を映す湖沼 前髪はさらさら揺れるススキの原 つい急いでしまうから、 もう呼吸が乱れてる。 脚をどこにかければいい? 腕で平衡をたもて。 なんて難しい地形。 狭く永く、終わりが見えない谷に このまま住み付いてしまいたい。 肋骨のかげに咲くスズラン くるぶしを舐めて塩分補給 ねえ、もう少し。 もう少しで開けてくる。 高い高い場所。 風の音よりも、呼吸がうるさい。 鼓動で揺れて、崩れ落ちる肉体。 振り返れば来た道は消えている。 無駄なことは何一つなかったさ。 命が大事なんてことはきれいさっぱり忘れて、 最後の峠にさしかかる。 薄くなる酸素、構わずに駆け上がり、 未知の果てで、 こだまというこだまを目覚めさせる。 頂上まで辿り着いても、鳥にはなれない。 素直に抱かれていれば良いのに、 無理して飛んでしまうから、 山に登った後はいつも 滑落死体みたいに、バラバラなのさ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加