3 ■ 変身 ■

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 手に吸い付く肉感はふわふわだ。なんとなく、貴文を筆頭に世の男子が……いや、人類の多くが魅了される理由が分かった気がする。  俺はひたすら揉んだり、揺らしたり、引っ張ったりしてから、溜息をついた。 「……夢だ。夢」  普通に考えてありえない。  俺はパジャマを着直すと、再びベッドに寝転がった。キツく目を閉じ……ふいに意識が下半身に向く。  ……ない。  ない気がするとか、そういうあやふやな感覚ではない。断言できる。股間にあるべき俺の息子の存在が消えていた。  ズボンの上から、押さえてみる。思った通り、そこにあるべき膨らみも感触もない。 「……」  あの古典的名著のごとく、唐突に、なんの理由もなく、俺の体は別のものになっていた。虫じゃなかっただけマシかマシじゃないのか、考えてやめる。  上掛けを頭からかぶり、瞼をぎゅっと閉じた。  次はもう少しまともな夢を見よう。そう思った矢先――部屋の扉が、乱暴に叩かれた。 「いつまで寝てるの。もう出る時間でしょう?」  母だ。俺は慌てて扉に背を向けた。 「すぐに着替えるよ」 「お母さん、今日朝から会議だからもう出るわよ。朝食は用意してあるから、食べ終わったら、皿、ちゃんと水に浸けておいてよね」 「分かった」  母は足音高く階段を下りると、玄関を出ていった。 「……どうしよう」     
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