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でも、母にはこれ以上心配させたくなかったから、言わなかった。
「翔太。一緒に帰ろう。帰り道、同じだろ?」
そんな俺に、貴文は声をかけてくれた。
転校してきたばかりだったから、俺がクラスでどんな扱いを受けているのか知らなかったのだろう。でも、彼の態度は二ヶ月後も、半年後も変わらなかった。彼は、不思議と俺のことを気にかけてくれた。
「……」
「……」
何か話があったわけじゃない。俺たちは無言で帰った。
貴文の目的は分からなかった。俺と一緒にいたって、何のメリットもない。
でも、俺は違う。貴文がいれば一人ではなかった。
不思議と、小突かれたりすることも減った。
そんな日が続き、やがて小学校5年も終わる頃。
貴文も、前は母子家庭だったのだと知った。お母さんが夜のお店で働いていたことや、彼の母の再婚相手が、お金持ちのお爺さんだと言うことが噂になったのだ。
そんな大人たちの話を聞いたのだろう、貴文を嫉んでいたやつらは、まるで鬼の首をとったかのように、その話を吹聴して回った。母と息子は買われたのだと。
貴文の人気に翳りがさし、俺のポジションまで落ちてくるまで時間はかからなかった。
やがて、貴文は誰とも話さなくなり、俺と下校することすら避けるようになった。
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