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俺は、ホッとした。彼は俺のことを巻き込みたくないと思っている、そんな風に好意的に解釈して。
でも、彼は俺に呆れていたんだと思う。俺はあれだけ彼に世話になりながら、見て見ぬ振りをしていた。
「……ねえ、一緒に帰らない?」
ある日、貴文が俺を誘ってくれた。
俺はとても困って、困って……でも、断りきれずに、頷いた。
二人で教室を出る時、下駄箱で靴を履く時、並んで帰り道を歩く時、俺は酷く緊張したのを覚えている。誰かが俺と貴文が歩いているのを見て、彼への悪口がいつか俺の方にシフトするんじゃないかと怖かった。
夕日が長く二つの影を縫い付ける。やはり、俺たちは無言で帰り、やがて分かれ道で、ふと、貴文が立ち止まると口を開いた。
「……引っ越しするんだ。って言っても、同じ学区内なんだけど」
「そうなんだ」
「見える? あの山の上にあるマンション」
「うん。あそこに住むの?」
「そう。今度、遊びに来てよ」
「……ありがとう」
愛想笑いを浮かべて、俺は頷いた。彼と別れると、途端に胸が苦しくなった。
俺は知っていた。一人になる苦しみも、そんな中で誰かを誘うことの困難さも。
(貴文は、俺のこと助けてくれたのに。こんな俺のこと、誘ってくれたのに)
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