5 ■ 憧れと恋心 ■

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 俺は都合が悪くなると、彼の傍から逃げ出した。自分のことばかりのクズ野郎だ。嫌いだった自分を、ますます嫌悪した。 (貴文の家、遊びに行こう)  彼が俺を助けてくれたように、今度は俺が彼を助けよう。  そう決めた瞬間、灰色がかっていた目前が鮮やかに見えた。  いい考えだ。きっと、俺の人生はそうなるようにできている。不思議な確信と、高揚感が体に満ちていった。  ――事件は、それから数日後に起きた。 「お前の親、運動会来ないの? 父親は? 杖ついてくればいいじゃん。会ってみたいなー」  授業を終えた教師がクラスを出ていった途端、男子のグループが貴文に突っかかった。  彼はもちろん無視をした。しかし、その態度が気に食わなかったのだろう、彼らは早口で言葉を続ける。 「本当、会ってみたかったな。若い女が大好きなエロ爺にさ」 「……父のことを悪く言うな」 「なんで? お前の母親、買われたんだろ」 「……ッ!」  眦を持ち上げた貴文に、男子がゲラゲラ笑い出す。 「あ、あの、止めなよ。人の親のこと――」  俺は勇気を出して口を開いた。あまりに小さな声過ぎて、全然届いていない。もう一度、今度はもっと大きな声で……と息を吸った次の瞬間、貴文は机の脇にかけていた自身のランドセルを彼らに投げつけた。     
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