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俺は都合が悪くなると、彼の傍から逃げ出した。自分のことばかりのクズ野郎だ。嫌いだった自分を、ますます嫌悪した。
(貴文の家、遊びに行こう)
彼が俺を助けてくれたように、今度は俺が彼を助けよう。
そう決めた瞬間、灰色がかっていた目前が鮮やかに見えた。
いい考えだ。きっと、俺の人生はそうなるようにできている。不思議な確信と、高揚感が体に満ちていった。
――事件は、それから数日後に起きた。
「お前の親、運動会来ないの? 父親は? 杖ついてくればいいじゃん。会ってみたいなー」
授業を終えた教師がクラスを出ていった途端、男子のグループが貴文に突っかかった。
彼はもちろん無視をした。しかし、その態度が気に食わなかったのだろう、彼らは早口で言葉を続ける。
「本当、会ってみたかったな。若い女が大好きなエロ爺にさ」
「……父のことを悪く言うな」
「なんで? お前の母親、買われたんだろ」
「……ッ!」
眦を持ち上げた貴文に、男子がゲラゲラ笑い出す。
「あ、あの、止めなよ。人の親のこと――」
俺は勇気を出して口を開いた。あまりに小さな声過ぎて、全然届いていない。もう一度、今度はもっと大きな声で……と息を吸った次の瞬間、貴文は机の脇にかけていた自身のランドセルを彼らに投げつけた。
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