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大きな音が立ち、教室に緊張が走った。俺も言葉を飲み込んだ。貴文が物を投げるほど怒った姿は、今まで見たこともない。
「なっ、なんだよ。突然、キレるとか。や、やるのか!?」
一人が拳を握って、足を踏みならす。すると、貴文は涼しげな眼差しを彼らの足元に向けた。
「……そんなに、踏んだりしない方がいいよ。君の足の下に、欲しがってたカードがあるから」
「は?」
きょとんとした男子が足を退ける。そこにはクラスで流行っていたゲームのカードが一枚があった。貴文が投げつけたランドセルから落ちたのだろう。
ギョッとしたのはグループの彼らだ。それは、喉から手が出るほど欲しい、決して子供の財力では手に入らない幻のカードの一枚だった。
「俺、あと6枚レア持ってるんだ。欲しければやるけど」
貴文は薄く笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「は……はあ!?」
「ただし、二度と俺の両親のことは何も言うな」
微笑みながら告げられた声は、クラスの温度が凍り付くほど冷たい。
「バ、バカじゃねーの! そんなことっ……」
男子が顔を見合わせる。戸惑いと、心の探り合いが繰り広げられ……
「俺、もう言わないよ!」
一人が、床からカードを拾い上げた。
……その瞬間、カードの取り合いが始まった。つまらない中傷より彼らにとってはレアカードの方がよっぽど価値があった。
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