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2 ■ 貴文と俺 ■
俺の生物学的性はオスだ。性自認もオスで、性表現もオス。
でも、性的嗜好は……たぶん、パンセクシュアル。
たぶん、というのは、「男でも女でもこだわらない」というより、貴文に関してのみ「男でも女でも構わない」ってことで、厳密には違うかもしれないからだ。
俺はもう13年くらい、叶うはずのない恋をしている。
* * *
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、俺は足早に購買へ向かった。
賑わう学生たちに揉みくちゃにされながら、並んだ惣菜パンと菓子パンを可能な限り手に取る。
「翔太。お前、まだ貴文の犬してんの」
クラスメートに声をかけられたのは、レジに並んでいる時だった。
俺はちらりと後ろを振り返ると、態とらしく肩をすくめてみせる。
「犬って酷いな。頼まれたから買い出しにきてるだけだよ」
「その量、貴文の分だけじゃないよな。アイツのゴミみたいな取り巻きの餌もだろ。……毎日、毎日、よくやるよ。あんな奴らと付き合っていられるほど、特進クラスは甘くねえからな」
「あはは……」
俺は曖昧に笑って話を切り上げた。前を向いて眼鏡の位置を直す。それから会計を済ませ、そそくさと屋上へ向かった。
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