真夏の雪

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Bの言葉がずしりと幸せな気持ちを押しつぶした。この日常が非日常であると気づかせる言葉。私の日常()を暴く言葉。このホットドッグだって私の日常のための小道具。 ──もちろん分かっている。真夏に降る雪、実らない樹木、近づく太陽。何もかもがおかしい。太陽がだんだんと近づいてきているのにも関わらず、雪はさっぱり溶けずにここ数年間ずっと降り続いている。科学者たちは原因不明と匙を投げ、政治家たちはとっくに国を捨てて外へと逃げていた。私たちに配布されていた連絡用端末も『異常事態、即座ニ脱国スベシ』というメッセージを最後に役割を終えていた。 他国はこんな国を放置しておくわけにも行かず、二年ほど前から壁の建設に着手していた。我が国を取り囲む巨大な壁に開いた小さな通り道は、あと二時間で完全に封鎖される。他国からの援助も何もかも断ち切られ、この国は国として死ぬ。 「分かってるわよそのくらい。そういうあんたもおばさんの説得するために残ってるの?」 話題をふるとBは後ろめたそうに私から目をそらした。 「……母さんはもうダメだ。国に残る人のためにパンを作り続けるって言ってる。父さんが国を出てってからずっとな」 だから俺だけでも出てく、とBは短く付け足した。青い目が揺れているのを見ながら私は大きなため息をついた。 「……そっか。私は残るよ。どうせここを出ても身寄りもいないしね。一人でいるくらいならこの国に残って、ここで死んだ方がマシ」 吐き捨てるように言って、ちらりとBの様子を見る。Bは手をぎゅっと握りしめて、そうか、と小さく呟いた。
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