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第九章 恋の方程式
1
如月刹那が福岡から出て、月日が流れた。
「刹那!」
「……っ!」
一人の少女が刹那に飛び付いた。
茶色の髪を後ろに結んでいた。
「痛いよ、美奈……」
幼少期にいつも遊んでいた伊月美奈だった。
「お帰り、刹那!」
「……うっ、うん! ありがとう、そしてただいま」
と嬉しそうに抱き締めて泣いていた。
「……良かったね、帰って来れて。ほんと心配したんだよ。刹那や刹那のお母さんがこの地を離れた時は……どうなるかと」
「……痛いよ。ほんと……痛い所を突くね。……美奈、ありがとうね。美奈が頻繁に連絡してくれなかったら、心が折れてた」
「……うわーん!」
二人は再会を喜び合った。
「お帰り、満散」
「うん」
如月満散、刹那の母であり、伊月美奈の母の友達。手を重ね合い、安心感を抱いていた。
「あぁ……」
「良いよ、無理しないで。でも、こんなに早く戻って来なくても……ちょっとは」
「良いよ、それより、大丈夫何ですか?」
「……うん、大丈夫よ、葬儀は……どうする」
「うん、やります……これも人の定めだから。費用も出してくれて、ありがとう。美凪」
「……はは、別に気にしないで。それよりほんとに良いの。叔父さん達の方は。刹那ちゃんは、少し楽しそうだったと、聞いているけど」
「……そうね、私も言ったけど……刹那は帰る事に決めたらしい。それも、刹那自身の意志よ。刹那の彼には申し訳ないわ」
「満散……ほんとにお帰り!」
と美凪は満散を抱き締めた。
親子揃って似ていると思った刹那だった。
あれから、如月家は伊月家の隣りに家を建て暮らし始めた。
勿論、葬儀も終え、悲観も終わりを告げた。
刹那は母親の様子を見守っていた。
また、嫌な事でもあったのではと。
「刹那!」
ふと、声が響いた。
その声で振り向く。
「美奈……」
公園にて遊んでいて、そこに伊月美奈がやって来た。
何でか、心配そうに駆け着けて。
「どうしたの、そんなに息を荒らして」
「はぁはぁ、だって、帰って来たのに……いつも楽しくないような顔をして、気になるに決まっているよ、何があったのか、聞かせて。まさか、後悔してる?」
「え?」
美奈の頬に汗が流れ、服の中に入り込むように、それを拭いさえせず、刹那わ、見詰めた。
刹那はスカートの裾を掴み、涙を堪えた。
「はぁはぁ……刹那……。ふう、もう大丈夫だから、話してくれないかな。……はぁはぁ、がはっ!」
いや、それ息切れし過ぎでしょう! はは、ほんと、美奈は。
「ふっ、はっははは。もう、可笑しいよ! 悩み事がちっぽけに思える」
「はぁ、刹那。あんたね~」
「……大丈夫だよ。私は。ただ、気掛かりは、高嶺君だけど……怒っているだろうなーと。美奈」
「うん……仕方ないと思うよ。決めたのは、刹那でしょう。だったら」
「……分かっているよ。だから、余計に、これから、どうするのか、って」
「だったら」
美奈は思い切った事を言った。
「これからの人生、生き恥の無い人生を歩む。つまり、人に感謝されるようになりなさい。勿論、人との関わりも忘れない事」
と、出来るかな。
「さぁ、頑張ろう。刹那」
「……うん、分かった」
こうして如月刹那は徐々に人と接するようになり、いつしか、故意に目覚めるのだ。
高校に入り、誰もが青春を送る。それをやる。見る。視る。観る。
別々の意味合いにも、沢山の発見があった。
豊島高のみんなは、親しみやすい。
「刹那」
「……はっ!?」
いきなり背後から声を掛けられ、叫んでしまった。
「これから、宜しく」
「……うん、美奈。何で、そんなに引っ付くの?」
「これからだよ」
いや、何をする気なの。
学校か、高嶺君、いすずちゃん。何しているかな。
「……」
刹那は深く考えた。
その頃、福岡の方は。
高嶺は深く落ち込んでいた。
「貴明……いい加減にしなさいよ。……先生!」
「何だ、今は授業中だ。静かにしろ」
先生が注意をし、授業を再開した。
授業の内容は数学。ほんと眠たくなる。
「いすず」
「……ちょっと、今は授業中。終わった時に」
「あぁ……頼む」
と静かに授業を受けた。
あれから二年経って、高校に入ったが、まだ思うより上手くいかない。
どうして、何も言わないで、居なくなってしまったのか。
「……刹那」
あの日だ。
先生に刹那が転校したと聞かされて、信じられなかった。
何処に転校したのか先生に聞いたが教えてくれなかった。
いや、知らないと言って良いのだろう。
教室の中では騒めき立っていた。
「……ちょっと、ヤケを起こさないでよ。家庭の事情は何処にでも有るんだよ。仕方ないよ」
「ぐっ、何がだ! あれだけの事をして来たんだぞ。折角、上手く行って……楽しく行くつもりだったのに」
「そんな自慢気に話さなくても……」
相当に落ち込んでいる高嶺貴明。
「……これから、どうすれば」
今の俺では、何も出来なかった。
あっと言う間に中学を卒業した。
いすずと同じ高校に入り、柊いつき先輩は宣言通りに旅に出た。
「貴明、ゴロゴロしないで。部屋の片付けでもしろよ。……」
家では父や母にどやされる。姉や妹には、心配を掛けていた。
「……ごめん」
と一言言い、部屋に戻った。
「……はぁ、父さん。兄さん、あんなんでほんと大丈夫なの?」
「……さぁな。俺にはなんとも言えない。しかし、彼女……だっけ。その人が転校したから、あんな風になったんだろう」
父は深く貴明の心痛を思っていた。
「なぁ、なんとかならないか?」
「……はっ、私に聞いているのかしら」
父は食事をしている母親に聞いた。
「……うっ、そうだよ」
「あなたね、ただの警官が、なんとか出来るとでも思っているの。人様の事情にまで首を突っ込む。はっきり言って、迷惑千万。余計な事言ってないで、新しい人生を歩め! それが答えよ」
怖い事を言って、食器の片付けに入った。
「母さん」
「それも人生。受け入れるしかないわ。それに……如月家の事は、あんまり首を突っ込んで、私の首が飛ばされる、可能性があるから」
皿を洗い、そして。
「じゃ、私は仕事に行くから。くれぐれも、余計な行動起こさないように、ちゃんと見張っておきなさいよ!」
と母親はそう言い、リビングを出て行った。
「……母さんの意地悪!」
「そう言うな千秋。父さんが調べるから。なんとかな」
「……お父さん」
と千秋は溢れる涙を拭き取った。
しかし、母の言う通りだ。
ただの警官は何をしても、規律違反だ。
「千秋、お前は貴明を励ましておいてくれ」
「うん」
と千秋はそのままリビングを出て行った。
「とにかく、捜し出すのは骨だし。蛇の道は蛇、これは専門家に任せるか」
高嶺家の父は電話を掛けたのだった。
『……もしもし』
「掛かったか、そんなに怯えんなよ。葛城よ。久し振りだ」
電話をし、懐かしんでいた。
『別に怯えては居ないが、福岡県警、所属、刑事課、警部様が、元刑事の葛城に何か用事か?』
「あぁ、急遽頼みたい事が出来た。今、探偵のお前にだ!」
電話の相手はかつらぎ探偵事務所の葛城圭吾。元、福岡県警の刑事で俺の同期だ。
何で警察を辞めたのかは、誰も知らない。
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