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第九章 恋の方程式
4
「ほんとに……良いのかな……私」
今更、不安を感じていたいすず。
「何だよ、昨日漸く飛行機が取れたのに、今更止めるってのか!?」
昨日はあんなに喜んでいたのに。
「だってさ。足が震えて……勿論、刹那ちゃんにだって会いたいよ。でも」
「さっさとしないと、飛行機に乗り遅れるぞ。いすず、乗り掛かった船だ」
「……分かったわよ。行くよ!」
と急ぐように飛行機に乗った。
福岡から徳島、案外近いからフライトは一時間から三時間ぐらいで着いた。
「あ……あっと言う間だね。ふう~」
疲れたのか、息が荒れていた。
「何だよ、いすず。折角の遠出だぞ。何へばってんだよ」
「はぁ、飛行機……あんまり慣れない。……」
「さぁ、少し休んだら情報収集だ。ほらっ」
手を差し出す。いすずはその手を掴んだ。
近くの公園に座るスペースがあり、其処に座った。
「目が回るよ~」
「何だよ、それ。ちょっと待ってろ。冷たい飲み物を買って来てやるから」
と急ぎ足で近くの自販機に向かった。
数分で戻って来られるだろう。
徳島に来たのは良いが……資料には徳島としか書いてなかった。
やはり、トップシークレットって奴なのか。部外者に居場所を教えない。
「……人って、恐いな。人を簡単に殴り、蹴り、精神が壊れるまで続けるなんて……」
これは最早、人じゃない。
「ふう、これで良いか」
オレンジジュースを買い、いすずの所へ戻る。
「ほれっ」
「冷た!」
ペットボトルをいすずの頬に付け、驚かした。
「何、するのよ! びっ、びっくりした」
「はっははは、ごめんごめん。はい、オレンジだ。さっさと回復しろよ」
「むぅ~誰のせいだと」
といすずはオレンジジュースを受け取り、ぶつぐさ呟いた。
「何だ?」
「ううん、んぐ。はぁ~」
オレンジジュースを飲み、一息吐いた。
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「うん、でっこれからはどうするの。私達は此処の土地勘なんて無いし」
「……そうだな」
来たのは良いが、手掛かりも無いんじゃどうしようもない。
「ぢみぢみと捜すっきゃないさ。もう大丈夫か、いすず」
「うん、でも。もうちょっと休もうよ。此処風が気持ちいし」
そう言って、風で靡く髪を手で押さえいた。
海が近いからか、丁度良い風が吹いていた。
「あぁ……そうだな。……そうだ!」
貴明は何かを思い至った。
「何……どうしたの?」
「街に聞いて回って行こうかと……」
「えっ!?」
いすずが呆れていた。
どうして、そんな事をと思っているのだろう。
「貴明、あのね。これは素朴な疑問何だけど。刹那ちゃんの事を聞いて、教えてくれるのかな?」
「ぐっ、そうか」
刹那の事は世間じゃ噂になっているだけで、此処では周知の事実か。
「そうだな……聞き込みをしても教えて貰えないかもな」
「だったら」
いすずは何かを思い付き、立ち上がった。
駅前に来て。
「……何をするつもり」
「あらら、さてと。すいません~」
といすずは周囲に居る人に話し掛けた。
あの……それはどう違うのか。
「はい、何でしょう?」
「近頃の近況はどうなのかな?」
「はい? 近況ですか? んっと、何。これ新手の宗教か?」
「んな!? だから」
と知らない人に食って掛かるいすず。
「はっ、おい」
と貴明が止めに入る。
「すいません。えっと、俺達は人を捜して居るだけで。……ほんとすいません」
「そう……か。だったらそう言え。逆ナンかと思ったぞ。ったく、でっ」
年は俺達と変わらないが、学生なのか。
「はっ、そんな訳無いでしょう! 私が……ただ、最初は砕けた会話をと思って」
いや、全然そんな風には見えないが。
端から見たら、勧誘にしか見えないんだけど。
学生服を着た人も、呆けているじゃないか。
「ふっ、ははは! そうか。まぁ、俺もびっくりしたが……はぁ」
学生は何故かしょんぼりした。
「あの、大丈夫」
「良いよ、でっ、誰を捜しているんだ?」
「……はっ!?」
とその言葉に驚いた。
「じゃ、教えてくれるの?」
いすずは地元の人の胸ぐらを掴み、威嚇する。
嘘を吐いたらただじゃ置かないよ。と込めているのだろう。
「おい、おい。其処のお前。何なんだ、この娘!」
「落ち着け、いすず。俺達はヤクザじゃない。はぁ、『カツアゲ』みたくなってんぞ」
といすずを引き離す。
「ごっほごっほ! はぁ、勘弁してよ。……早く教えるよ。ごっほ!」
咳込み、聞いた。
「あぁ、それは。……くっ、此処、徳島に居ると言う情報で来て、捜して居る。名前は如月、刹那だ」
「……っ! ごっほごっほ!」
学生はその言葉を聞いて、また咳込んだ。
「えっ、まさか。……お前、高嶺……か」
「えっ、何で俺の名を?」
「だって、俺は。その、刹那もクラスメイトだからね。でも驚いたな、じゃはるばる九州からか。話を聞いてたよ」
「えー!」
いすずは叫び、ほんと選択に間違いは無かった。
いすずは今にも泣き出しそうだった。
「おい、どうした?」
「はは、嬉しさの余り……固まったみたいだ。すまない」
いすずをそのまま、おんぶし。
「……ふう」
「はぁ、お前が羨ましいぜ。近くのファストフードにでも行くぞ。もう昼だしな」
その、学生さんは恥ずかしそうに歩き出した。
近くのバーガー店に入り。
「……」
ポテトを食べ、考えていた。
「あのさ、無言にならないでくれよ。気まずくなるからさ!」
「ごめん、しかしだな、信じて良いのかどうか」
「大丈夫だよ。嘘を吐いていると思うのか」
「いや……そう言う訳じゃ」
「別に良いじゃない。……えっと、名前は?」
いすずが問い掛けて、漸く気付いた。
「あっ、すまない。名乗るのを忘れてた。しかし、驚いたな、ほんとに」
と学生の少年は笑った。
「良いから、早く言えよ。じゃないと……俺は……」
信じ難い。
「分かったよ。言うよ。俺は、田宮だ。田宮衛(まもる)。豊島高の二年だ。ったく、少しは落ち着けよ」
と田宮衛は飲み物を飲んで言った。
「すまん。早く教えてくれないか? えっと、田宮」
「……はぁ、衛で良い」
「会ったばかりなのに、もう親友みたいになりたいの?」
いすずは乗り突っ込みを入れた。
「なっ!? おい、いすず。余計な茶々を入れるなよ。……」
田宮は泣き出す寸前。
「……くっ、良いよ。俺、こう言うのに慣れているから。俺はぱっとしないから。よく、からかわれているから」
何、その俺は不幸ですって言う発言は。
「所で、如月とは、どう言う関係だ?」
「一時、付き合ってたんだ!」
と顔を赤くし言った。
「へぇ、そう何だ。って、えぇー! まじかよ、あの……問題児がね」
衛が顔を引き擦っていた。
「問題……児? どう言う事だ?」
「いや……はっはは。そうか。彼奴は今、生徒会に入り、クラスを纏めているんだな、それが……」
衛が笑顔で言った。
「刹那ちゃんが生徒会! 何があったの?」
「……そんなに驚いて、こっちが『えー!』ってなるよ。まるで、生徒会に入るような人じゃないって、そう思ったか」
衛は冷や汗を流し、焦っていた。
「……はい、整理しようじゃないか。今の彼奴は悪戯好きな変人だ」
衛は周知の事実を言った。
「悪戯……あの大人しかった刹那ちゃんが……信じられないんだけど」
いすずがほんとに疑っていた。
確かに、中二の時と今じゃ、大きく変化したのかもしれない。
「でっ、刹那は元気にして……いるんだな。……うっ、くっ」
ふと涙が溢れて来た。
どうしようもなく。
「貴明……どうして泣くの?」
「うっ、煩い。嬉しいに決まっているだろう。もう会えないんじゃないか、不安になってもおかしくは無いだろう」
と涙を拭い取り言った。
「はっはは、変な奴だな。所で、さ! 如月との関係だが、会ったとしても、復活するとは思えんが」
「……何で、そう思うんだ?」
「だってさ、一度も。お前達の話をした事無いんだぜ。つまりは、『忘れたい』と言う事になると思う」
衛が考えを巡って言った。
いすずが怒り出す勢いで立ち上がった。
「おい……」
「水をぶっ掛けるなよ」
「そんな事しないわよ! 貴明は私を何だと思っているのよ……」
泣きそうな表情をしていた。
「おいおい、落ち着けよ。此処で息を荒してもしょうがないだろう」
衛が冷静になり言った。
「じゃ、会いに行くか?」
「えっ!?」
その問いに驚いた。
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