ジュリーと女友達

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 ■  ジュリーファンに返り咲いた私は早速チケットを購入して、二〇一九年一月の日本武道館のコンサートに参戦した。それは、よく動画で見ていたバンド編成の派手なステージではなくて、ジュリーとギタリストと二人だけのミニマムなコンサートだった。──古希を迎えたジュリーは、時にステージを右に左に走り抜けながら、十八曲を力強くほとんど休むことなく歌い上げた。     若い頃の艶やかで伸びやかだった声はそのままやや太く深みを増して、ギタリストと二人だけというシンプルな構成がゆえに、その歌声はストレートに私の心に響いた。ある音楽番組で誰かが言っていた「引き算の音楽」とはこういうものじゃないか──と、素人ながらに思った。  合間、短いMCの中でジュリーは「80歳まで歌い続ける」と声高らかに宣言した。いやいやそれ以上、生きている限り歌い続けて欲しい。       ジュリーの熱い言葉と歌声の余韻をかみ締めて、九段坂を下って地下鉄のコンコースへと向かった。コンサート帰りのジュリーファンでかなり混雑した狭い歩道を、押し合いへし合いして下って行く。体は人混みの流れで勝手に駅へと誘導されながら、その人いきれの中で何故か急に、過去に捕らえられて一人足掻いていた自分が馬鹿に思えた。  どうしてあの状況の中でそんなことを思ったのか──それは多分、押し合いへし合いしていたのが自分と同世代か、一つ上の世代の人達だったからだと思う。当然長い人生を生きる中で全員に、人それぞれの山があり谷があったはずだ。それなのにみんな人生というものに押し潰されずにこうやって、好きなスターを応援する仲間と、夜の都会の真ん中で押し合いへし合いしている。そんな人の強さに気付いたからではなかっただろうか。  私を含めた群衆の半分くらいは地下鉄の階段になだれ込んだ。乗り慣れない東京の電車に戸惑いながら、スマホ片手にどうにかこうにか家にたどり着いた頃には、私は少し前を向いていたように思う。  古希のジュリーに感謝。  ジュリーを応援するファンに感謝。  ジュリーが歌い続ける限りライブ観戦を続けたいと思った。  
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