ジュリーと女友達

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 ■  さて、あの鈍行列車に揺られていた十七歳のうららかな春の日は、今の私にしてみれば、恐竜が闊歩していてもおかしくないくらい、はるか大昔の出来事だ。    あの日熊本駅からコンサート会場に歩いて向かう道すがらに見た桜の木は、あれから何十回と花を咲かせて、またそれと同じ回数惜しまれながら散って行ったことだろう。あの日の真由美ちゃんの笑顔も桜の木も、私はちゃんと憶えている。それなのに何故か、記念すべき一回こっきりのジュリーのコンサートの内容を私はほとんど憶えていない。  ただ、長いマイクのコードを器用に(さば)きながら、広いステージを右へ左へ駆けていたジュリーの軽やかな足元を微かに憶えているくらいだ。  昭和が終わり、その内に平成だって平成時代と呼ばれることになるのだろうけど、そんな運命が待ち受ける平成も早くも三十年が過ぎ──多少くたびれて、固くなって来た自分の頭の中をたまに大きなスプーンでグイグイとかき回し、あの日のジュリーの姿をもう一度見てみたいと、ぎゅっと目を閉じて「えい!」と脳内深く念を送ってみるのだが……その願いはいつも叶わない。  実際に見たり聞いたり経験したことは、必ず脳のどこかに保管されていると思うのだけれど、今だにうまく取り出せないでいる。
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