ジュリーと女友達

8/18

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 ■  私は幼い頃から歌を歌うのが好きだった。まだ幼稚園に通っていた頃だと思う。父親の仕事先の慰安旅行での出来事だ。どこかの温泉に向かう観光バスの中で、私はマイク片手に恥ずかしげもなく流行歌を意気揚々と披露した。そして歌い終わると父の同僚の方々から万来の拍手をもらった。  それは私の子ども時代の貴重な温かい思い出のひとつだ。その(ささ)やかな慰安旅行の一日は我が家の数少ない憩いの日であり、私は多分にはしゃぎ過ぎていたのだと思う。悲しいかな私を形成した子ども時代の日々は、それだけ穏やかならぬものだったということだ。    それでも十代後半にはアルバイトで稼いだお金でだったろうか、吉田拓郎や井上陽水などのフォークシンガーのライブが地元であれば必ず足を運び、町の質屋で買ったガットギターを爪弾いてユーミンやを口ずさんだりして、青春は音楽と共に過ぎて行った。  しかしその僅か数年後、無謀に突入した結婚生活の過渡期の中で、音楽はずいぶんと私から遠のいて行った。はっきり言って音楽どころではなかったのだ。吉田拓郎も井上陽水もユーミンもりりィも、言わずもがなジュリーも遥か彼方へ忘れ去られて行った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加