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この婚活パーティーは女の人はそのまま座った状態で男の人だけが回転ずしのようにずれていく感じで、5分という会話タイムで相手のことを知ったり、逆に自分のことを知ってもらうみたいだけど、そうこうするうちに雪下君が私の前に座った。
「久しぶり、この場で久しぶりっていう人に会うとは思わなかったけど。」
雪下君は淡く笑った。
「・・・わたしもだよ。雪下君に会うなんて思わなかった。」
恥ずかしくなってうつむいてしまう。雪下君と学生時代ちゃんと向き合って会話したことあったかな・・・?いつも人に囲まれていてキラキラした人たちばかりで自分と別世界にいる人だから自ら避けていたかもしれない。自分がいやになっちゃうから。
「ちゃんと話すの初めてかもだね。同じクラスのときもあったのに。」
雪下君も自分と同じことを考えていたんだ。思わず、顔を上げる。
「私も同じこと考えていた!雪下君とあの時話してみたかっ
たのに、話せなかったの。」
「キラキラ男子だったから?誰からも好かれる優等生キャラだったから?」
一瞬、雪下君から暗いオーラが出た気がした。一瞬だったから気のせいかもしれないけど。
「そういう部分もあったけど、雪下君を見てると自分が情けなくて。私と違って、自分という軸があるから。私はいつも自信なくて、人の陰に隠れて、今日だって美紀が申し込まなきゃこの場にいなかったの。自分から動けない、自信がないで逃げてしまう自分を雪下君を通して見ちゃうの。」
雪下君は大きく目を開いて私を見てる。
「人のいいところはすぐに見つけれる。けど、わたしはなんにもない、からっぽなの。」
一気に言って苦しくなって涙目になる。会話タイムは終了してしまった。移動の声がかかる。ガタンと椅子から雪下君は立ち上がる。もっと楽しいこと話したかったのに、そう後悔していると雪下君が折りたたんだメモ帳を私にずいっと渡した。
からっぽなんかじゃない。
走り書きでそう書いてあった。雪下君はもうこちらを見ていないけど心が温かいものに満ちてきた。
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