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雪下君と会うときはいつもカフェだった。
「ここのシフォンケーキ美味しいでしょ?」
雪下君おすすめの紅茶のケーキにフォークを沈める。今まで私が知っているシフォンケーキで一番ふわふわしていて口の中に入れると泡のように消えた。
「雪下君、これ本当に美味しい!」
雪下君が微笑み珈琲を飲んでいる。控えめに店内はジャズが流れていて、静かな場所を好むお客さんがちらほらいて話していなくても心地よい気持ちになる。元々私は話すのが得意じゃないからすごくありがたい。雪下君がこういう店を知っているのが意外だった。学生時代の雪下君はいつも賑やかな場所に自分から行く人だったから。誰よりもその場所に合っている人だったから。
「いつも会うときこのカフェばっかでごめん。」
シフォンケーキをもう一口食べようとした私にポツリと雪下君は言った。
「え?」
顔を上げると寂しそうな目で淡く笑っていた。雪下君と再会してからいつもこの目をしている。いつか消えてしまうんじゃないかと思ってしまう顔を時々している。
「私は、こうやって過ごせるだけで嬉しいよ。」
そう伝えると雪下君は少し驚いた顔をした。
「私は、その・・・初めてのお付き合いだからよくわからないけど、雪下君とこうしていられるだけで胸がいっぱいなんだよ。この時間がずっと続けばいいのにと思うことはあるけど。」
息を飲む音がした。雪下君は一瞬泣きそうな顔になった・・・気がする。
「デート、しよう。ちゃんと普通の恋人みたいに。」
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