雪下律の過去

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あと、3日で俺の誕生日だ。二十歳になる。 「律、この日は予定入れるなよ!」 1週間前から昔からの友達が居酒屋を予約してくれてそこで俺の誕生日を祝ってくれるらしい。 いい年して誕生日祝うとかマジないわ~と笑っていたけど心の中ではかなり嬉しかった。 自分のことを気にかけてもらえるのが嬉しかった。いつも仕方ないけど母さんのことを気にしてばっかりだから。 「絶対空けといてよ!」 笑顔で分かった、分かったと言う。 大学から家に帰るまで鼻歌を歌うくらい機嫌がよかった。 家の中に入るまでは。 「律、お父さんの時計知らない?」 部屋の中がぐちゃぐちゃになっていて、これを片付け終わるのにどれくらい時間がかかるのだろうと考えてしまった。母さんはぐちゃぐちゃにしても片付けはできなくなってしまったので俺がやるしかない。 「律、律ったら!」 母さんが呆然としている俺を揺さぶる。 「うるさい!」 みんなはこんな苦労していないのになんで俺はこんなことになってるのだろう。 医者の先生と時々話してそのときは心が楽になっても現実は変わらないから、すぐ辛くなる。 それでも母さんにできるだけ優しくするように心がけていた。 だから怒鳴ったのは初めてだ。母さんは大きく目を見開くと泣き出してしまった。 「ごめん。」 俺は2階に上がり自分の部屋にこもった。どうすればうまくやっていけるかわからない。静かに二人で支えあって生きていく、それさえもできないのか。
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