サニーサイド Sunny Side

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サニーサイド Sunny Side

 カーテンを一度も開けたことのない窓から陽がさしていた。そしてキッチンから朝を告げる音と香りが届いてきた。 「懐かしいな」  つぶやきながら起き上がりリビングへ向かった。母親以外の背中を見ながら珈琲を飲むのは初めてだ。そこには幸せな一日を予感させる朝があった。     「おはよう」  彼女を驚かせないように、そっと後ろから抱きしめた。彼女は僕の頬にキスを返しながら、手元では卵を焼いていた。白身は軽く焦げ目がついて香ばしく、黄身はぷっくらと半熟な目玉焼き。美味しそうと言いかけた時、彼女は目玉焼きをひっくり返した。 「ええ!」  思わず彼女から体を離すと覗き込んでしまった。その日からよく目玉焼きの定義について議論したものだ。お互い若かったのだと今では笑える。  君はひっくり返して焼きめをつけた少し硬めの白身と、トロリと流れ出る黄身をトーストにはさむのが好きだった。すすめられるがままに食べた俺も、その絶妙なバランスに魅了され今では朝の定番メニューだ。 「何ニヤニヤしてるの。お腹空いたー」  キッチンのカウンター越しに催促がかかった。以前は悲しそうな顔をしていた俺は、今ではニヤニヤしているらしい。 「はい、はい。今できるからお待ちください」  笑いながらフライパンを持つ手に力を込めた。今でも毎朝君を感じる。一緒にいた時間、君は俺の愛を感じただろうか。俺は愛を伝えられただろうか。君は沢山のものをくれた。沢山のことをしてくれた。その何分の一かでも、君に返せただろうか。  窓からさす光。今までと変わらない朝。ふと思う。この時間を大切にする事が、君への恩返しになるのだろうか。  ただ。変わったものと言えば。甘いカフェオレの香りと、君が残してくれた娘のために目玉焼きをひっくり返す俺がいること。 〈Fin〉
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