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恋桜
春、それは始まりの季節。
満開の桜が咲き乱れる僕の高校には一年を通して一度も花を咲かせない不思議な桜があった。
しかしその桜は一部の人には満開の桜が咲いて見えるという噂もありその一部の人はみな恋をしていたことからこの桜は恋をすると花が咲いて見える桜……通称恋桜と呼ばれていた。
そんなこともあり、この恋桜はよく告白の場所に使われるのだった。
──僕はこの時間が少し嫌いだ。
音無優人は恋桜の木の影でそんな事を思っていた。
幼馴染みの女の子……藤崎花菜は良く告白をされる。
僕は彼女に頼まれ毎回のようにその告白を見守っていた。
もちろんその告白に一度も花菜は頷かない。
花菜が言うには断る勇気が欲しいから僕を連れて行っているらしい。
「……まったく、いい迷惑だよ」
こっちは毎回この告白を見る度に不安な気持ちになっているというのに。
ただの幼馴染みであってそれ以上でもそれ以下でもない、僕と花菜の関係。
それなのにどうして僕はこんな気持ちになっているんだろうか……。
その疑問を投げかけるように僕はもたれ掛かっている桜の木を見つめる。
「想いを伝える恋桜……か」
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