手に入れたモノ

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「陛下の御恩情に甘え、立場を無いものとして 私のありのままの想いをお伝えします 無礼にあたる発言が多々あると思いますが どうかお許しください…」 そう断りを入れ 深呼吸をする息遣いが聞こえる これからどのような言葉が投げられるのか 身を硬くして待つ 「私は、貴方を汚れているとは思いません 貴方自身がどう思っていようと これから先、私がどんな話を見聞きしようと 汚れていると思う事はありません」 身体に残る痕を見て呆然と立ち尽くしていた 袁吏(えんし)の姿が鮮明に蘇り また胸がジクジクと痛み、不快感が押し寄せる 「お前が…私の身体を見て何かしらの負の感情を 抱いたのは明らかだった…何故認めない ありのままを話すのではなかったのか 私は見え透いた嘘など聞く気はない」 俯いていた顔を上げ、睨みつけると 困ったように眉尻を下げ視線を揺らす 「私の態度が貴方の眼にその様に映ったことは 私の不徳の致すところ…申し訳ございません 心よりお詫びいたします」 床に手を付き頭を下げる 「私を信じて欲しいと望みながら それを難しくしたのは自分自身であると 理解しています しかし…」 言葉を切り、ゆっくりと顔を上げる そこには不安げに揺れていた眼はない あぁ…またこの眼だ 強い眼差しは、やはり私の心を大きく揺さぶる この男は他の者とは違うかもしれないと いらぬ期待を抱かせる… 「信じてもらえるまで何度でも言います 私は貴方を汚れているとは思いません 私の態度に、負の感情が見えたというのは 間違いではありません 確かに、黒く…(わだかま)る感情がありました けれどそれは貴方に向けてではなく 自分の気持ちの問題だったのです」 信じ難い話だと思っているのに 本心であると強く訴えるような視線に圧され 口を挟む事は出来なかった 「貴方が性的な行為を強いられているという 事実は、私にとって予想すらしていなかった 最悪の事態でした けれど、その最悪とも思える行為を 何でもないことのように この程度で狼狽えるなと、そう言われた時 もしかしたら貴方は、現状を 憂いていないのかも知れない…そう思いました もしそうであるなら… その事実を受け入れられず守りたいと願う 側近(わたし)の存在は貴方にとって不要なものになる 今日に至るまで 貴方を想って過してきた年月が… 自分の存在が、意味の無いものになってしまう それは何より受け入れ難い事でした… 私が抱いたのは決して貴方を汚れていると 蔑む気持ちではありません 自分が望んだようにならなかった事への 失意、落胆…そういった気持ちです その身勝手な感情が、貴方を深く傷付け 挙句その口から "私の姿はどれ程汚れて見えるのだろうな"と… あのような言葉を言わせてしまったのです」 淀み無く凛とした声色でそこまで言うと 床につくほど深く頭を下げる 「どれだけ悔いたところで貴方を傷付けた 事実は変わりません この気持ちが貴方の心に届く事はないのかも 知れません それでも… 貴方を想い、今まで生きてきた私を認めてほしい 傍に在ることを許してほしい どうか俺を信じて……主…」 先程までの凛とした声色は、弱々しく掠れ 切実な懇願へと変わる 想いがそのまま溢れ出たのだろう最後の言葉に 心が動かないはずがない その温かさを私は求めずにはいられない 信じよう…その清く、尊い心を 二度と触れることは叶わないと思っていた 心が温まるモノは 今、確かに…目の前にある
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