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秘密
この日、魔法古書店は閉めていた。誰も店の中には入れない。だからといって、俺とナナちゃんは休みという訳ではない。
「えーと、こちらの道のようですね」
ナナちゃんが地図を持って先導してくれる。俺たちが住んでいる街の大通りを西に向かって数分歩き、川に架かる橋を渡って、住宅が並ぶ地区にやってきた。
「よくその地図で道が分かるね、ナナちゃん」
ナナちゃんの持つ地図にはへろへろとした線と四角と文字しかない。
「そうですか? でたらめのように見えてちゃんとポイントは押さえていますよ」
俺だと、どの角で曲がるか分からなくなるだろう。
「えーと、ポストが見えたら、右に曲がって、三軒目の家。ここですね」
二人で立ち止まってその家を見上げた。白い壁にオレンジ色の屋根。この町の家はどこも同じ色をしている。ナナちゃんが入り口の前にある数段の階段を登った。ノッカーを鳴らそうと手を伸ばすと、鳴らす前に玄関が開く。
「いらっしゃい。待っていたのよ」
出てきたのは少し腰が曲がっている白髪をお団子にしているおばあさんだった。
「この度は魔法古書店のご利用ありがとうございます」
「今日はお二人なのね。さあさ、入って頂戴」
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