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第1章【出会い】
「多田、少し待っていてくれ。」
有李斗(ありと)はそう言って、車の少し前の道に倒れている少年の傍へと歩いて行った。
「おい、大丈夫か?」
声をかけるも、呼吸はしているが目を開けない。
「意識がないな。」
「有李斗さま。こんな身も知らない者に関わってはいけません。」
有李斗の秘書兼付き人の多田が止めに入る。
「だからって倒れている奴を、このままにはしておけないだろう。」
こんな風に良い人ぶっては言ってみたが、普段の有李斗は他人に興味がない。
他人どころか、自分の事でさえ興味などない。興味がないと言うよりも、感情などと言うものすらいらないとさえ思っていた。しかし、ほんの一瞬、目の中に入ってきたこの少年には、自分の意志とは別に身体の方が先に動いたのだ。
「有李斗さま。急にどうしましたか?貴方さまが他人に手を伸ばすなんて。」
「そんな事はどうでもいい。車に乗せるぞ。」
「車にですか?救急車を呼べばいいではないですか。」
「いいから車のドアを開けろ。俺の言う事がきけないのか。」
「かしこまりました。」
秘書兼付き人である多田は、怪訝な顔をしながら仕方なく車のドアを開ける。
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