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有李斗は、国内でも有数な企業の家柄の一人息子で、社長である父親の元、右腕として仕事を任されているのだ。その父親は一代でここまでの会社を成長させた。しかし有李斗の中で父親は、あくまで経営者であって父親ではない。
有李斗が幼い頃、妻を亡くし、それからは自分の右腕になれるようにとしてしか有李斗に接していなかったのだ。仕事に感情はいらぬと。感情を表に出してしまえば足元をすくわれてしまうと。そう有李斗に教え込んできたのだ。そのおかげで有李斗は人に関心を持たない(いや、持てない)人間になってしまったのだ。
そんな有李斗が道端に倒れている少年に手を伸ばすなどと、多田からすれば天地がひっくり返るような出来事であるとともに、有李斗に何かあってしまったらという思いがある。その為、有李斗の行動にストップをかける必要があるのだ。
「多田、こいつを病院に連れて行くから、今日のスケジュールは全てキャンセルだ。」
そう言いながら電話をする。
「もしもし、大(だい)か?」
「おおう。有李斗じゃねーか。久しぶりだなあ。お前から電話なんて、どうしたよ?」
「今から患者を一人運ぶ。お前に診て欲しいんだ。それも極秘で。あと15分くらいで行く。裏で待っていてくれ。」
「連れてくるって、誰を連れてくるんだ?」
『ツーツーツー』
答えないまま電話を切った。
「切りやがった。何なんだあいつは。」
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