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目を開けると澄んだ空が広がっていた。風は草を撫で、青葉と土の香りを運んでくる。昼寝にはうってつけの陽気だが、今はそれどころではない。
さっきまで神社の境内にいたはずだ。間抜けにも足を滑らせて、転倒した先がこの原っぱだ。先ほどまであったはずの石階段も建物も無くなってしまっている。
起き上がって辺りを見回していると、白いものがゆっくりと近づいて来た。よく見ると白馬じゃないか。馬は立ち止るとじっと僕を眺めた。
〈見たところ、ただの人間のようだが…〉
馬が喋ったぞ!?
いや、口は動いていない。テレパシーのようなものだろうか。とても奇天烈な状況だが、僕は思い切って尋ねた。
『あんたは何者だ!?』
白馬はじっと僕を眺めた。
〈礼儀知らずな奴だ。まず自分が名乗るべきであろう〉
『新田柊馬。新しい田んぼのひいらぎの馬って書く』
そう答えると白馬は考え込んだ。何か僕の名前に心当たりでもあるのだろうか。まあいい。とりあえずわかったことは、目の前のお馬さんはテレパシーを使える、だ。
〈我が名はリュシアン。ところで…〉
何かを言いかけた時、リュシアンの耳はピクリと動いた。
〈乗れ、厄介な連中が来るぞ〉
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