とある文房具屋での小話

2/8
前へ
/8ページ
次へ
  とある文房具屋の、とある陳列棚。そこでは、たくさんのペンたちが心を弾ませながら、静かに並んで待っていた。 「俺を買ってくれる人は、どんな人かな」 「昨日も、私と同じ型なのに、もっと線の細い子が選ばれていったわ。私みたいに太い線のペンは、最近、人気がないのかしら」 「おいらなんて、もっと酷いぞ。兄弟10人まとめて袋に入ってるのに、先輩に聞いた所によると、買われた後は皆んな別の人間に配られて、兄弟バラバラにされてしまうらしい」 「うふふ。私は新製品のボールペンだから、仲間たちがこの棚とは違う所にもいるのよ。そうして人間は私を見つけて、手にしてくれるの。鼻が高いわ」   もちろん人間には聞こえない声だが、彼らはいつも、こんな風に楽しくおしゃべりをしながら、棚に並んでいた。とは言っても動くことはできないので、みんな声を大きく張り上げている。 「僕の中には、3色のボールペンが入っている。それがずっと自慢で誇りだったのに、最近似たようなやつらがウジャウジャいて、困ってるんだ」 「あなたをわざわざ選ばなくても、他に良いペンがたくさんあるからね」   そう冷たくあしらったのは、隣の棚にいるシャープペンシルだった。シャープペンシルは、こうも続けた。 「いつもあなたたちが、やかましく話をしているけど。こちらの業界も大変なのよ。今までは、握りやすいとか芯が出やすい子が人気だったのに。最近は、いつでも尖ってるとか、体が細くて軽いとか。昔から人気だった子もまだいるけど、いつの間にか姿を消している子も多いわ」   その言葉を聞いて、ボールペンたちはお互い顔を見合わせ、黙り込んだ。   確かに、昔馴染みの仲間も多かったが、気付かないうちに1人、また1人と居なくなっていた。買われていくのではない。棚に置かれなくなるのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加