とある文房具屋での小話

3/8
前へ
/8ページ
次へ
  この時代の流れに、中でもとりわけ不安をかかえているのは、3色ボールペンの面々だった。彼らはいつの間にか現れ、一世を風靡し、今でもこの棚の王者として君臨している。しかし彼らにもそれぞれ特徴があり、王者の中でも人気のある者とない者に分かれつつある。 「認めたくはないが、もうすぐ、俺たちは王者の座をあいつらに受け渡すことになる。だからせめて、それまでは、凛とした態度でここに並んでいたい」   そう言ったとある3色ボールペンは、力強く意志のある声と共に、すぐ隣に並ぶ “大きなグループ” を睨みつけた。   長い陳列棚には、昔から暗黙の了解のように、並ぶ順番とそれぞれに与えられたスペースがあり、それが大きく変化することはなかった。しかし、“あいつら” が現れてから、この世界はガラリと変わってしまった。仲間たちの数が少しずつ減っているのも、自分と同じ型の在庫がなかなか増えないのも、全部 “あいつら” が来てからだ。   “あいつら” は、何の前触れもなく現れた。見た目は自分たちと同じで、特に変わった所も見当たらなかった。棚の住人たちは、いつも通り、新人を優しく迎えた。しかし “あいつら” は、先住民の温かい言葉に何か返事をするわけでもなく、ツンと鼻を上に向けながら黙ってその場に座っていた。こういう輩は、たまにいる。自分は特別で新しい商品だから、おまえたちとする話なんてない…というお上品な雰囲気を醸し出す連中だ。しかし大抵の場合、そいつらも時代の流れと共に “こちら側” へやってくる。真隣へ置かれることになった頃には、「いやぁ、あの時はどうもすみません」なんて頭をヘコヘコ下げながら、申し訳なさそうにやってくるのだ。   みんな、それぞれが『自分が一番』だと誇り高く思っていた時期があった。しかし時の流れには逆らえず、いつしか『その他大勢と同じ』になり、やがて『待ってても手に取ってもらえないから、棚にも並ばなくなる』…それを、ここいる連中は全員が知っている。明日は我が身。そう思いながら、仲間たちと手を取り合い、励まし合いながら、いつも棚に並んでいた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加