とある文房具屋での小話

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  新参者の “あいつら” も、例外なくそんな結末を迎えるものだと思っていた。この棚に並んでいる面々も、やはり一度は『自分が一番だと信じて疑わない』という時期があった。あの頃は若かったのだ。だから、今の “あいつら” の態度にも、そこまで腹を立てない。どうせ、いずれ我々と同じようになるのだから、と。   しかし、その予想は大きく外れた。斜に構えた新参者の “あいつら” は時の流れと共に、次第に自分たち『その他大勢』の仲間入りをするどころか、この限られたスペースの棚の中で、なんと『自分たち王国』を作り始めたのだ。そして、“あいつら” は初めて来たあの時と同じように、こちらを見ることはなく話しかけるわけでもなく、お高く止まりながらその場に座り続けていた。 「この現象…俺は、知っているぞ」   そう呟いたのは、お世辞にもイマドキとは言えない古びた格好のボールペンだった。彼は今でこそ棚の隅に追いやられているが、その状態でもう何年も残っている。売れ筋ではないが、買い求める客が常に一定数いる。古株の、どの世代の人間も一度は手にしたことがあるような、大手のボールペンだった。   彼は、まるでかつての大戦争を思い浮かべるように震えた声をしながら、小さな声で話し始めた。 「あの時… “やつら” は、初めはほんの数本だった」   棚の様々な場所にいるペンたちが、ごくりと唾を飲み込みながら、彼の話の続きを待つ。重く響く、ピンと張り詰めた空気が棚全体を包んでいた。 「 “やつら” の見た目は、お世辞にも頑丈とは言えなかった。ほんの少し力を入れればすぐに折れてしまいそうな、か弱い姿。俺のように、長年大事に使ってもらえるような風貌ではなかった」 「あの頃は、ちょうど…今おまえたちに仲間がたくさんいる『3色ボールペン』が人気でな。しかし、“やつら” はその体に一色しか色を持たなかった。3色ボールペンに比べると、明らかに使い勝手が悪い。その場にいた全員が、こう思っていたよ。『こいつらは、すぐにこの棚に並ばなくなる』とな」 「だが “やつら” は消えなかった。消えるどころか…なんと、“仲間” を増やし始めたんだ!」
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