とある文房具屋での小話

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「体には一色しかないが、“やつら” はその体の本数で戦いに挑んできた。そう、例えば…青の色であれば、薄い青から濃い青、華やかな青と…実に様々な色を持った仲間を、次々に増やしていった」 「そして、いつしか…我々古株たちが気が付いた頃には、この棚の3分の1が、“やつらの王国” になっていたんだ。様々な色の種類があるもんだから、その分スペースをとってな。しかも、体自体は華奢なもんだから、人間はすぐに買い換える。やがて、我々のような古株や、それまでトップの座を走り続けていた3色ボールペンたちは、少しずつ少しずつ、棚の隅の方に追いやられていったのだ…」   皺だらけの声で繰り広げられたその物語に、棚に並んでいたペンたちは息を飲んだ。まさか、そんなことがあるなんて…   しかし、シンと静まり返ったその空気の中で、ある1本のペンが声をあげた。 「というか、それって…もしかして、自分たちのことっすかね」   ん?と棚の連中は、彼を見た。彼の両隣には、彼と同じ姿をしながらも、中の色が違うメンツがずらりと横に並んでいたのだ。 「自分、一時期若い子たちに人気だったっす!手紙とかメモとか可愛く書くのに、たくさんの色を集めてもらって。俺ら専用のペンケースを用意する子とかもいて。いや、あの時は本当、俺ら王様だと思ってましたね!」 「「「おまえらかよ!!!」」」   その場にいた全員が思わず声を上げた。しかし、それがまた、今現在の状況が最悪であることを物語っていた。 「次々と脱落者を出し、一世を風靡したおまえたちまで、俺らと同じ棚に並ぶようになるとは…」 「あの新しい連中は、一体どんな秘密兵器を持っているというんだ?」
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