とある文房具屋での小話

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「あなた、どこから来たの?ちゃんと元の場所に戻してくれないなんて、酷い人よね」   そう優しく声をかけたのは、姿形はスリムでいながらも、小さな石やキラキラ光る装飾をまとった “オシャレ系3色ボールペン” だった。彼女もまた、一時期手帳ブームの際には大人気だったが、斜に構えることはなく、「見た目だけゴテゴテしてますが、中身は皆さんと同じです」なんて謙虚な態度でいたものだった。   彼女は、この棚の癒しの存在だった。しかし、その “見慣れぬペン” は、彼女にこう言った。 「気安く話しかけないでくれる?私、あんた達とは違うから」 「あんたら、ただのペンでしょう?うちらは、ペンはペンでも… “消せるペン” なの」   …は?   こいつは何を言っているんだう、と、棚の連中ほぼ全員が口にしようとしたが、必死でその言葉を飲み込んだ。   我々最大の特徴は、鉛筆やシャープペンシルとは違って『消えない』ことなのだ。だから、重要な文書には欠かせない存在である。『消えるペン』など、本末転倒じゃないか。   しかし、“そいつ” は続けてこう言った。 「あんたらが長い間消えないせいで、人間たちはすごく不便に感じるようになったの。だから、私たちが作られた。仕組みは内緒。でも、少なくとも、あんたたちの『仲間』ではないことは確かよ」   生意気な口調でそう話した “そいつ” は、しばらくして、店員が気付いて棚から取り出し、元の場所である『隣の王国』に丁寧に並べた。
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