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人生こんなところで終わらせてたまるか!第1話
それは突然のことだった。
「別れよう」
あたしは彼の言葉を聞き違えたのかと勘違いした。
「え?今何言ったの?」
彼は、一度あたしから眼を逸らしてから、また目線を戻して、
「俺たち、別れよう。いや、別れてくれ、そう言ったんだ」
「え?じょ、冗談でしょ?だって、あれ…私たち、来年には結婚するんでしょ?式場も予約したし、両親への挨拶もすませて、 結婚指輪だって買ったわよね?」
あたしは、なんの冗談かと思った。夢でも見てる?あたしたちはここまで順調にきており、間もなくゴールインする予定だったのだ。あたしは、自分の頬をつねって、夢じゃないのを確認した。それから、左手を出して指輪があるかも確認した。
「あ、それも、返してもらうよ」
そう言って、彼はあたしの左手から指輪をもぎとった。
「ちょ、ちょっと、冗談もほどほどにしてよね!」
さすがにあたしも怒った。
「冗談じゃないよ。本当。俺は本気だ」
「ちょっと、いい加減にしてよ!じゃあ、本気だって言うなら、その理由を言って!なに、他に女ができたの?」
あたしは、テーブルをバンと叩いて、大声を張り上げた。ファミレスの客が全員こちらを向いた。あたしは周りの視線を感じながらも、彼を睨み付けた。
「いや、そんなことはない」
そう言いながらも、彼はあたしから目をまた逸らした。
「違うっていうなら、こっち向いて、あたしの目を見て言って」
「違うって…。
その…貯金しなきゃならないんだ…」
「は?」
その回答は予想外のものだった。
「貯金しなきゃならないんだ。だから、結婚資金も出せない。だから、別れるんだ」
「ちょ、貯金って、何の話よ?」
「お、お告げがあったんだ」
「お告げ?」
「そう、神からのお告げ。3年後には教会を建てなければならないんだ」
「あんた、何言ってるの?」
彼の話はこうだ。最近知り合った、男性からある宗教団体を紹介され、それにハマった訳だ。そこで、お布施のために貯金をして、来年にはまとめて支払わなければならないというのだ。
「あ、っそ。わかった。じゃあ、別れてあげる」
あたしは、再度テーブルを叩いて、請求書を彼に投げつけた。
「ただね、これはもらうわよ」
そう言って、もぎとられた指輪を取り返し。
「慰謝料代わりね」
そんな男、こっちからお断りだわ。
そうして、あたしはファミレスを出た。
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