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「海はクラゲが大量発生で泳げませんよ。しかしこの暑さといいクラゲといい、隕石の影響っすかね?」
着替え終わった修は、隣の部屋が見渡せる、大きなガラス窓がはまった壁の扉に手を掛けた。
「さあね、でもそれが本当ならもう、すぐおいでになる、でっかい石コロを破壊して貰わなくちゃな。頼むよ街道くん」
モニターの上から覗く、庵原のニヤリとした目を見た修は、ドアに挟まれ暴れる仕草をしながら隣の部屋へと入った。
部屋の中は小さな洗面所と、中央に置かれた椅子以外何も無く、天井に設置された青白いLED照明が、床と、無数のコードが垂れている機械的な椅子を照らしていた。
修は洗面所に置いてある小さなビンから錠剤を二粒取り出し、コップの水と共に飲み込んだ後、中央の椅子に座った。
椅子の上部にはヘルメットを二回りほど大きくしたような形状のものが設置してあり、それが下にスライドしてゆくと、修の頭部がすっぽり隠れた。
「気分は上々?」
砂を撒き散らかしたように星がまたたく宇宙に地球、月、少し離れ火星が浮かんでいるCG画像が映し出されたヘルメット内部に、庵原の声が流れる。
「株価上々」
「それじゃトレーニング開始」
火星近くで赤く点滅する点に、修は意識を集中させた。
その意識が飛ぶ。
そして次に視界に現れたのは、上下左右の感覚のない真っ暗な宇宙空間だった。 一ヶ月前、初めてこの空間に出たときは多いに慌てふためいたが、二十七回目ともなればお馴染みの風景といったもので、冷静に辺りを見渡した修は、目に入った直径百メートルほどの岩の塊へ移動し、その上へ着地した。
右足を軽くあげた後、岩の地表を踏みつけると、その部分から大きな亀裂が走った。
“足りなかったか”
舌打ちした修が、ヤケクソ気味に何度か踏みつけると、岩の塊は四等分の形に砕けた。
「オッケー、移動確認できた。今日は昨日のより更に大きい石ころ壊しに挑戦しようか」
どこか別な次元から聞こえるような、だがはっきりとした庵原の声に、修の目が無機質になる。
そしてこう思った。
“石ころ壊して地球を救ったとこでどうなんだよ。その先に何があるってんだよ……”
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