春告草

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 一筆申し上げます。  余寒の候、お変わりなくお過ごしでしょうか。  梅の花が散りました。  春告草(はるつげぐさ)とも呼ばれる花が散り、待つのは桜のほころびです。  梅は風待ち草とも申します。  貴方からの風の便りを、期待する私を愚かとお思いでしょうか。  いいえ。きっと貴方は笑わないでしょう。とても生真面目な方ですから。  少し耳を澄ませば、家の傍を流れる清水の音が聴こえます。  雪解け水が下流へと下り、やがて水も温むのでしょう。  私を取り巻く境遇の全てが、春の息吹を孕み、先へ進もうとしています。  変わらないのは私の、貴方への想い。  そして貴方が貫く無言。  この手紙にも、きっと返信は来ないのでしょうね。  優しい貴方がそうするには、それなりの訳があるのです。  私は散った梅の花弁を拾い、辞書に挟みました。その内、押し花が出来上がり、いつか貴方に見てもらえる日も来るでしょうか。  貴方がささやかな花弁を見て、目を細める様が思い浮かぶようです。  梅は花弁さえも仄かな芳香を届け、私の胸を締め付けるようです。  逢いたい。  貴方に逢いたい。  何て陳腐な言葉でしょうか。
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