上煙

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しかし、子役としての賞味期限が過ぎると、仕事のオファーはピタリと止まった。 オーディションを受けても、「動きが大袈裟だ。」「ただ声が出ているだけ。」と批評され、軒並み落とされた。彼女には女優の才能がなかった。 やがて母親は、枯れ木を見るような目で絵里をつき離すようになった。その視線は、絵里の心の中にある純白のゴム毬を砕くには、十分すぎるほど冷たかった。 酒タバコは13で覚えた。 荒んでいく絵里の姿を見かねた事務所の社長は、彼女に声優への転向を勧めた。 しかし、絵里は、社長の申し出を断り続けた。自分には、女優の才能があると信じて疑わなかったからだ。 だが時が経つにつれ、絵里の心身は薄く擦り切れていった。 自らを包むぬくもりの全てが取り払われる寸前まで追い込まれて、とうとう絵里は声優への転向を受け入れた。 その時始めて、絵里は自分がもう20歳であることを実感した。 着替え終えた絵里は、楽屋から喫煙所へ移動。自撮り棒を伸ばしては、キャッキャと騒ぐ女どもを遠巻きに見ながら一服した。 (私は、あいつらとは生きてる次元が違う。私には成功の実績がある。女優という明確なビジョンがある。この仕事は、たかだかその踏み台に過ぎないんだから……) 口からハァーと吐く煙は、気怠げな目を通り越し、排気ダクトへ吸い込まれていった。
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