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翌日の朝、枕元から突如鳴り響くポップな木琴の音色が、絵里を眠りの海から浮かび上がらせた。
萎れた目をなんとかしてブルーライトに向ける。事務所のマネージャーからの着信だった。
「……何。」
「あっ、堀田さん! メール見てくれました? 今ちょっと面倒なことになってて……」
「じゃ、そのメール見れば分かるのね。朝から電話してくんじゃねーよバーカ。」
「ひぃ!?す、すみま」
マネージャーの謝罪を尻目に、絵里は電話を切り、メールを確認した。送られてきたメールには、いつもの控えめな文面とともに、複数のURLが添付されていた。
絵里は、眉間にしわを寄せながらも、とりあえず一番上のURLを開いてみた。
『悲報:ファミガの心音ちゃん役声優、ヤニカスだった』
血の通わない白色のゴシック体が、絵里の目をこじ開けた。
「何……これ……」
震える親指で画面をなぞっていく。
そこには、SNSから拾ってきたであろうファミガメンバーの自撮り写真、その奥に映る喫煙所で一服する絵里を拡大した画像が貼ってあった。
『マジかよ……癒しの心音ボイスが煙吸ってる喉から作られてるって……』
『てか自ら肺ぶっ壊しにいくとか、声優として終わってるだろ』
『所詮は子役あがり女優崩れナリ』
『俺の心音ちゃんがこんなにヤニカスな訳がない。』
メールに添付された他のURLを開いても、同様のまとめサイトに飛び、同様のコメントが連なっていた。
絵里の心には、焦りよりも怒りが膨らんでいた。携帯を握る手に、震えと力が増していく。
「何……何なの……私が煙草吸ってようが何しようが別にいいでしょ!? 何様のつもりなんだよクソが!!!!」
絵里が携帯をベットから床に叩きつけようと、腕を大きく振りかざしたその瞬間、再び軽快な木琴の音が響きだした。
今度は、事務所の社長から。絵里はすぐさま電話に出た。
「社長!! 何なんですかコレは!! なんで私がどこのどいつだか知らないクソ野郎にこんなに叩かれなくちゃならないんですか!!」
「お、落ち着きたまえ、堀田くん。今回の件はこっちでなんとかしておくから……その、今後は現場で煙草を吸うのは控えてくれないかな……?」
「はあぁ!? 私もう21ですよ!? 煙草吸って何が悪いんですか!?」
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