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「君の言いたいことも分かる!! でも、こういった商売は、イメージが重要なんだ。ファンは、君とキャラクターを溶け込ませたがるものだからね。イメージに差があっちゃ駄目なんだよ。小学生が煙草を吸わないだろう? 分かってくれるかい?」
「は、何それキモ。そんなキモい奴らの為に、生活習慣まで変えなきゃいけないんですか?」
《そうにきまってるじゃん! お客さんはみーんな!わたしをみにきてくれてるのよ! あなたみたいなおばさんはいらないとおもうな~。》
「えっ!?」
不意に、舌足らずな高い声が、絵里のこめかみに響いた。
周りを見渡しても、誰もいない。
カラカラに乾いた口内とは裏腹に、多量の汗が絵里の輪郭をなぞってはポタリポタリと落ちていく。
「堀田くん? 堀田くん? どうかしたのかね?」
「……いえ、何でもないです、何でも……」
その後、絵里は社長の忠告に被せるように返事をし、足早に電話を切った。
シーツの上には小さな池ができていた。
数日後、次のライブに向けてのダンスレッスンがスタジオで行われていた。
休憩中、他のメンバーが、和気藹々と話に花を咲かせているなか、絵里は1人、鏡の前で練習を続けていた。
「ハァッ……ハァッ……」
(何がヤニカスよ……何が女優崩れよ……。結果を出せばいいんでしょ……結果を……。次のライブで完璧なパフォーマンスを披露して、ネットのクソ野郎どもを黙らしてやるんだから……)
垂れてくる汗を湯切るように激しく動く。その絵里のもとに、1人のメンバーが駆け寄ってきた。
「あの、堀田さん。ごめんね。なんか私が挙げた写真のせいで色々迷惑かけちゃって……」
絵里は、ダンスの動きを止めて、駆け寄ってきた女を一瞥し、薄く笑った。
「……その目、その人を見下す目……してやったりって思ってるんでしょ。私が炎上して……」
「な、何言ってるの? そんなことないよ~!!」
彼女は、手をブンブンと大袈裟に振りながら否定した。
(ぶりっ子ぶっても無駄よ。その目が全てを物語ってる……その、枯れ木を見るような目が……)
絵里は、顔に垂れ始めた汗を誤魔化すように、再び練習を始めた。
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