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そして、ライブ当日。舞台上の絵里は、完璧に仕上がっていた。ダンスのキレ、歌の声量、どれをとっても他のメンバーを凌駕していた。
(どう、文句ある? これが私の実力!! これが私の才能!! 思い知ったかクソ野郎ども!!!)
一心不乱に舞った絵里の体からは、小さな湯気があがっていた。
その日の夜、意気揚々とマンションに帰った絵里は、煙草に火をつけるよりも前に、携帯で例のまとめサイトにアクセスした。
「さぁーって、うるさいハエどもを黙らせることはでっきたっかな~♪」
だが、ネットの反応は、絵里の思っていたものとは、かけ離れていた。
『心音役の声優、目立ちたがりすぎwwww』
『1人だけ動きキモくて目が散った。』
『心音ちゃん小学生だぞ? そんなキレキレで踊る訳ないじゃん。調子乗んな。キャラ守れ。』
ポタリ、ポタリ。絵里の輪郭に涙がつたった。
「何でよ……あれだけ頑張ったのに……何で誰も私のことを見てくれないの……何で誰も私の名前を呼んでくれないの……」
絵里には、もう親指を動かす気力もなかった。ただ呆然と画面に向かって、呟いていた。
「何で……何で……」
《だから言ったじゃーん。だれもあなたのことなんて見てないって。みんな、わたしを見てるんだから》
頭の中にキンキンと響く声が、絵里の神経を逆撫でさせた。
「……うるさい。」
《あなたはしょせん舞台装置、わたしを囲むスモークにすぎないの。みんな、蜃気楼の中に映るわたしの姿をのぞんでいるのよ。》
「うるさいうるさいうるさい!! あんた……あんた心音でしょ……どうして、どうして私があんたに命令されなきゃいけないのよ!!! これは、私の人生なの!! 私の物語なの!! 邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」
絵里は、叫んだ。今の思いの丈を、自分の頭の中に巣食う幼女に向かって。
《…………ころねって……だれ?》
「えっ、だって……その声は、私の演じてる……」
《ねぇ、だれ?だれだれ?だれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれ…………》
ガクッと絵里の頭が、催眠術にかかったように俯いた。しばらくして再び顔を上げた絵里は、すっかり手鏡となった携帯の画面に向かってこう言った。
「……あなた、だ~れ?」
そして彼女は、机に置いてあるライターを自分の顔に近づけ…………
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