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「お父さん・・・」
次の瞬間、オッサンの前に立つ、よれよれのパーカーを羽織り、うす汚いリュックを背負った、二十歳位の女の子が、真っ青な顔でそう呟く。
続いて、「バチン」という、オッサンが女の子の頬を張る音が、ビルの壁に跳ね返ってこだますると、
「一緒に、村上に帰ろう」
「・・・」
「お母さんもツヨシもばあちゃんも、みんなお前のことを心配している」
対峙する二人、共に今にも、泣き出しそうである。
「・・・もう一度、ちゃんとみんなで話し合おうじゃないか。こんな形じゃ俺は嫌だ。今度こそ、俺はお前の、その夢ってヤツを、尊重してやるつもりだ。そして家族みんなで応援して、お前を気持ちよく、生まれ育った家から送り出してやりたい。だから、な、あかね、分かってくれ、俺たちの気持ちを・・・」
俺は思わず、五月晴れの、どこまでもどこまでも青い空を見上げた。俺も、胸に抱いた夢を追いかけて、田舎の実家を飛び出してきた。思えばもう、16年も前の話になる・・・
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