少年と薬師

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少年と薬師

 鬱蒼と生い茂る森の中、ひとりの少年が、ほとほと困った顔をして辺りを見回していた。きょろきょろと忙しなく動く視線は何かを探しているようだが、周辺に彼以外の人は見当たらない。  何度かうろうろとこの辺りを行ったり来たりして彷徨ったあと、がっくりと肩を落とした彼は小さく呟いた。   「……迷子に、なってしまいました……」  絶賛迷子中の少年の名前は、椿という。鴉の濡れ羽のような艶やかな黒髪に、鮮やかな赤い瞳をした珍しい色合いの少年だ。年の頃は十五に満たないくらいだろうか。かわいらしい顔立ちに加え、椿の簪で髪を結い上げているせいで、少女のような可憐さを窺わせる子供だった。もしかすると、ほっそりとした身体つきも彼の性別を見失わせる要因のひとつかもしれない。  そんな子供がこんな森の奥深くで何故一人なのかというと、話は数刻前に遡る。
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