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けれどそれから二週間、その人は毎日同じ時間に買い物に来た。
私が休みの日にも来ていたらしいので、毎日二週間で間違いない。
「おでんください」
「はい。はんぺんとちくわぶとたまごとこんぶでよろしいですか?」
毎回同じものを買って行くのですっかり覚えてしまったおでんの具を先回りして言ってみると
「は、はいっ!」
と嬉しそうに笑った。
その顔が急に子供っぽくてつられて笑ってしまう。
ぐるぐる巻きの水色のマフラーと紺のフード付のダウンジャケットのせいで半分ぐらい顔が見えなかったけど、いつもは丸く見開かれている目がくしゃっと細められて、人懐っこい印象に変わる。
時々は友人と一緒の時もあるけど、ほとんど一人で来るその人を、私もいつの間にか待つような気持ちになっていた。
「あ、今日も来た」「またおでんかな」「やっぱりおでんだ」
私のいるレジを選んで来るその人の事をバイト仲間にもからかわれて、余計に意識するようになったのもある。
けれどその後もその人が個人的に私に話しかけてくるようなことはなくて、ただのお客さんとコンビニの店員の関係は何も変わらなかった。
そして二週間がたったある日、いつものように仕事を始めようとすると店長に「北里さん、ちょっと」と呼ばれてバックヤードへ行った。
「こちら今日からバイトの新人くんで、高瀬くん。よろしくね」
「はい…え」
紹介されたその人は、私がひそかに「おでんくん」と呼んでいた、あのお客さんだった。
しかも印象があまりにも変わっていて、一瞬言葉を失ってしまう。
「高瀬慶一郎です。よろしくおねがいします」
そう言って下げた頭は、見事な金髪だった。
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