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「あ、はい。北里美桜です。よろしくお願いします」
挨拶をしながら、私はその黄色い頭から目が離せなかった。
なんで、なんで金髪?
昨日まで黒かったよね?
そもそもうちの店って金髪アルバイト、認めているんだったっけ?
次々に疑問がわいてくるものの、正面から聞けるはずもなく、一緒にカウンターへ入ると簡単なことから仕事を教えていく。
見た目が金髪なだけで、受け答えはとても真面目だった。
口数は少ないけれど挨拶や接客も丁寧で、掃除や重い物の移動なども積極的にやってくれる。
遅刻や無断欠勤なども一切無く、その実直な働きぶりは感心するほどで、ますます金髪とのギャップが疑問を呼ぶ。
時々休憩が一緒になることがあっても、ほとんど向こうから話しかけてくることはない。
お客さんだったときのように私の事をじっと見ていることもなく、むしろ目を合わせてくれなくなってしまった。
やっぱりあれは私の勘違いだったんだな、と思いながらも気まずさから声を掛けると、ぽつぽつと答えを返してくれる。
同じ大学の三年生。
学部が違うので、大学で会ったことはなかった。
とても若く見えるので、二つ年上なのは意外だった。
以前はどんなバイトをやっていたか聞いた時、これが初めてと言われたのも驚いた。
食事をする時の箸の使い方や食べ方がとてもきれいで、普段着のダウンジャケットやスニーカーはブランドものみたいだし、重そうなスポーツタイプの腕時計は高級品だと他のバイト仲間が騒いでいた。
ますます金髪とのギャップがわからない。
バンドをやっているとか?学園祭の出し物のためとか?
今日こそ聞いてみようと思いながらなかなか聞けないまま、時間だけが過ぎて行った。
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