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次に目が覚めた時、本格的に熱が上がっていた。
おでこを触っている自分の手も熱くて、吐く息も熱がこもっている。
さすがに自分でも、これはまずいと思った。
誰かに助けを求めるべきだろうか?
バイト先は今大忙しの時間だし、大学の友達でそこまで親しい子はいない。
携帯に連絡先が登録されているのは、たまに講義で一緒になるとランチに混ぜてもらえる三人の女の子ぐらい。
そのうち二人は実家暮らしで一人が寮に入っている。
だけど今日はクリスマスイブだ。彼氏がいてもいなくても予定はあるだろう。
こんな雪の中わざわざ来てもらえるわけがないし、そんな迷惑は掛けたくない。
「優子先生…」
こんな時に顔が浮かぶのはやっぱり優子先生だった。
「いつでも電話して」と言ってくれたけれど、今日だけはいけない。
「ひかり園」の子供たちが一番楽しみにしているクリスマスだ。
今頃は世話役の畑中さんが白いひげを付けたサンタの格好で登場して、みんなにプレゼントを配っている頃だろう。
こんな弱った声を聞かせたら心配を掛けるだけ。
優子先生なら「すぐに看病に行く」と言ってくれるだろうけど、こんな時間に小樽から札幌まで来てもらうなんて申し訳なくてとても頼めない。
結局私には頼れる人は一人もいないんだ…。
心細くて涙が出そうになったとき、何か音が聞こえたような気がした。
うっすら目を開けて布団から顔を出すと「ピンポーン」と玄関方面から聞こえる。
誰か来た?と気づくまで数十秒かかってしまった。
時計を見ると八時過ぎ。
こんな時間に来る人に心当たりはない。
よろよろと立ち上がると、また「ピンポーン」と呼び鈴が鳴る。
布団から出ると一段と冷え切った空気に身震いが出る。
毎年ニュースになる「自宅で凍死」の文字が頭に浮かんで、着ていたパーカーの前を掻き合わせた。
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