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イギリス人のミュージシャンが歌うその曲を、初めて聞いたのはいつのことだっただろう。
優しいギターの音色に乗せて、とつとつと繰り返されるメロディー。
まるで耳元で囁くように紡がれるその歌声が心地よくて
ただ何度も繰り返して聞いていたあの頃。
その歌が生まれた本当のわけを知った時、なぜそのギターの音色が。
せつなすぎるその歌声が。
こんなにも胸を抉るのかを知った。
けれどこの曲が持つ深い深い悲しみを、その時の私はまだ本当の意味でわかってはいなかったと思う。
「涙は天国に預けたの」
と、あの子は言った。
「だから僕たちの笑った顔だけを覚えておいて」と。
零れ落ちる砂時計の砂を一粒一粒拾い集めて天に捧げても
あの時間は二度と戻ってはこない。
私が流した一生分の涙と共に、彼らが天国へ持って行ってしまった。
「もう泣かないで。ママの涙も天国に持って行くよ」
約束したのに、おかしいね。
止まることのない涙に溺れてしまいたくなる。
「Tears in Heaven」
この悲しみが消えることは、永遠にない。
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