60人が本棚に入れています
本棚に追加
「はーい」と返事をしてのぞき穴を見る。
え?
そこにいたのは意外な人だった。
少しだけためらったけど、ガチャっと鍵を開けた。
ドアを開くとニット帽の下から金髪を覗かせた切れ長の瞳が、じっと見返した。
「高瀬…さん?」
名前を呼ぶとはっと目を瞠って、「こ、これ」とコンビニの袋を渡してきた。
中を見ると白い箱がはいっている。
「あ、ケーキ?」
「うん。夜になっても取りに来ないから連絡しようとしたら北里さんの名前だったから。店長に聞いたら風邪で休んでるって。帰り道だから届けに来た」
「あ、ありがとうございます。でもどうして住所?…あぁ、これ」
聞きながら予約票に自分で住所と電話番号を書いたことを思い出した。
高瀬さんはこくんと頷くと、「体調は?」と聞いてくれた。
「たぶん熱があるみたいなんですけど」
「うん。顔赤い。体温計ないの?」
「はい。わりと体丈夫だから」
「熱出してるじゃん。じゃあ薬もない?何か食べた?」
「あー、それが…っくちゅん!」
玄関が開けっ放しのせいで寒気が直で来る。
「あ、ごめん。閉めてもいい?」
と言われて「あ、はい」と答えると高瀬さんは玄関に一歩入ってドアを閉めた。
そして顔をしかめると
「この部屋、寒くない?」
と言って、私の肩越しにぐるっと狭い部屋を見回した。玄関を入ってすぐ右側に小さなキッチンがあり、続きのフローリングの間に布団が敷かれている。以上。
一目で全てが見渡せてしまう間取りが恥ずかしくなった。
最初のコメントを投稿しよう!